日常的幸福論~もうひとつの話~





マキちゃん滞在2日目。



今日は家の中で飛鳥が直接マキちゃんに演技指導するみたいだ。



この家の中で一番使用頻度の少ない和室で行うらしい。



「沙依、お前も来るか?」



「えっ、いいの?」



「沙依さんも是非。観客さんになってください」



自宅で演技が見れるなんて貴重な体験にあたしは二つ返事で頷いた。




『お待ちになってください!!あなたは……あのときの?』



マキちゃんが今演じてるのは目の見えない女の子の役。



飛鳥は劇団の中で一番演技がなってないって言ってたけど、あたしは上手く感じる。



「マキ、それではダメだ。まだお前は自分の目で見ている。いいか?心の目で見ろ」




「はいっ!もう一度、お願いしますっ!!『お待ちに、なってください……。あなたはもしやあのときの……?』」



「ダメだっ!マキは目が見えないはずだ。それでも相手を必至に追いかけているシーンだ。だけどマキの演技はもう諦めてしまってるように見える。もう一度」



「はいっ!『お待ちになってください!!あ…あなたはもしや、あのときのっ!!』」




ジッと真剣な眼差しでマキちゃんの演技を見続ける飛鳥。




飛鳥は人にも自分にも厳しい人だから、マキちゃんの演技になかなかOKサインが出ない。



あたしはそっと和室から出てキッチンへ向かった。
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