日常的幸福論~もうひとつの話~





「俺の今回の役が大正時代の財閥、瀬川芳郎っていう役なんだ。なんでも親の言うことをきき、世間知らずに育ったお坊っちゃまの役。そんな、彼が初めて恋をした相手が新人の使用人の女の子」



「その役がマキ、くん?」



「最後まで話を聞け。芳郎が彼女に気持ちを伝えるけど、芳郎には幼い頃から許嫁がいて、彼女のことを諦めてしまう。そこで、芳郎が捕った行動が、」



「わざと許嫁に愛を囁いてるとこを彼女に聞かせて、彼女の方から嫌われてしまう。ですよね?飛鳥さん」



いつの間にか服を着たマキくんは飛鳥にニッコリと微笑んだ。




「それって、さっきの?」



「そう。どうしても芳郎が彼女に嫌いと告げられたときの感情がわからなかった。俺は沙依に嫌いなんて言われたことがないからな」




「そこで劇団を通じて飛鳥さんから依頼があったんです。女に変装して、同じような状況を作り出してくれって」




「マキは新人だったから沙依とも面識はなかったし、女装しても違和感ないだろうと思ったからな」



「ちょっ!!ちょっと待って!!じゃああたしが脱衣場で見つけた下着は!?」




マキくんが男なら一体誰のだというのだ。




「あぁ、あれは凜子さんに頼んで用意してもらったやつだ」




凜子さんも今回のこと知ってたの!?



「ちなみに愛理ちゃんにも協力してもらったから。昨日うちに来ただろ?」



愛理ちゃんにも!?




ーーあんたのためじゃないってことだけ言うておくわーー


あれは、




飛鳥のためかい!!!






 



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