ルージュ ~盲目の恋に溺れて~
「悪いけど、葵を起こしてくれるかい? 急用なんだよ」


私は彼女の望み通り、葵を揺すって起こした。


葵は眠たそうに目を擦っている。


「何だよ? 今、何時だよ?」


ぶつぶつ言いながら身体を起こして、寝ぼけ眼の葵が正面に立っている彼女の方を見やる。


「うわ!」


葵は驚いて大声で叫んだ。


それから、目を大きく見開いて口を半開きにしたまま動かなくなった。


この突拍子もない出来事に唖然としている。


「何だい? その間抜けな面は? イイ男が台なしだね」


彼女は落ち着き払っていた。


「え? え? なんで?」


葵が素っ頓狂な声を上げる。


「合い鍵で入ったんだよ。返し忘れていたね」


彼女が鍵をちらつかせて見せる。


合い鍵を持っているということは、ただならぬ関係に違いない。


「失敬じゃないか!」


平常心を失った葵が怒鳴る。


葵は珍しく興奮していた。


「まあ、そうカッカするなよ。可愛らしいお嬢ちゃんの前で」








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