ルージュ ~盲目の恋に溺れて~
私を横目で見ながら、彼女はニヤリと笑った。


「と、とにかく、合い鍵返してくれ」


葵は狼狽していた。


こんな冷静さを欠いた葵を見たのは初めてだ。


「返すよ。その代わり、また頼むよ」


「また、頼むってまさか借りに来たの?」


「そうだよ。借りに来たんだ。3万貸して」


「もう、いいかげんにしてくれないか?」


「頼むよ、葵。他に誰もいないんだ。金は必ず返すよ」


この人はお金を借りに来たんだ。


葵と金銭の貸し借りがあったんだ。


それを葵が私に内緒にしていたのがショックだ。


どうして話してくれなかったんだろう?


それより、この人は一体何者なんだろう?


「また、ホストクラブで散財したんだな?」


「ああ、そうだよ。お気に入りがいてね。頼むよ」


「もう、甘えるのもいいかげんにしてくれ。僕は消費者金融の無人契約機じゃないんだ。3万も出せない」


「必ず返すよ。原稿料が入ったらすぐ返しに来るから」


「じゃあ、これっきりだから」


二人は揉めていたけれど、葵が折れる形で丸く収まった。


彼女が『原稿料』という言葉を口にした。






< 131 / 247 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop