ルージュ ~盲目の恋に溺れて~
「さあね。おばさんだからじゃないかい?」


彼女は私に流し目を送った。


それが、妖艶だった。


きっと、葵がこの人に心奪われたのはこの艶姿を見たからだ。


彼女は大人の魅力に溢れている。


まだ高校生の私には彼女ほど色気がない。


彼女に負けていると思うと、悔しさが込み上げてきた。


元カノと自分を比べても虚しいだけなのに、どうしても比べずにはいられない。


私は彼女をキッと睨んだ。


「加瑠羅! 何、喋ったんだ?」


開け放されたドアを通して葵がリビングから彼女に呼びかける。


『加瑠羅』と呼んだ。


花音が言っていた『黒崎加瑠羅』だ。


「別に。何も」


加瑠羅が呼びかけに応じる。


葵が寝室に戻ってきた。


手には茶封筒を持っている。


黙って加瑠羅に渡した。


「恩に着るよ」


そう呟くと、加瑠羅は茶封筒に口づけした。



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