ルージュ ~盲目の恋に溺れて~
そして、満面に妖しい笑みを湛えた。


「さあ、もう帰って」


葵が加瑠羅を追い出すように玄関へと促す。


「わかったよ。はい」


加瑠羅は合い鍵を渡しながら、寝室を出ていこうとした。


でも、足を止めた。


「大事なことを言い忘れてた」


私の顔に視線を投げると、加瑠羅が歩み寄ってきた。


目の前で立ち止まる。


「忠告しておいてやるよ」


加瑠羅のだみ声が室内に響いた。


それから、葵が見ている前で私にこう耳打ちした。


「あんたもいずれ捨てられるよ。おもちゃは飽きたらポイ捨てされるんだ。用済みになるんだからね」


『おもちゃは飽きたらポイ捨てされる』という言葉が心の中でこだまする。


これは、ふられた女の負け惜しみだろうか?


まさか言葉が現実味を帯びることはないだろう。


第一、私は『おもちゃ』じゃない。


人間だ。


加瑠羅の言葉を必死で打ち消そうとする。


でも、それは何度も心に色濃く浮き上がった。


「何を言ったんだ!?」


葵が加瑠羅の背後から声を張り上げる。


「変なこと吹き込んだんじゃないだろうな?」


葵が今までにないほど声を尖らす。







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