ルージュ ~盲目の恋に溺れて~
その表情は痛々しいほどの苦悶の表情だった。


「君には、すまないと思ってる」


「いいよ。謝らないで」


「不愉快だったよね?」


「大丈夫。気にしてないから。ただ……」


「ただ?」


私には一つだけ気にかかることがある。


それは、このベッドだ。


いつも寝ているこのベッドに、かねてから違和感を抱いていた。


ダブルベッドだ。


誰かと寝るために買ったんだろう。


その誰かが気になっていた。


元彼女の作家だろうとは目星を付けていたけれど、同棲していて毎日寝ていたとは思っていなかった。


あの真っ赤な口紅の妖しげな女とこのベッドで毎夜愛し合ったんだ。


想像したら、憎くて憎くてたまらない。


腸が煮え繰り返る思いだ。


さらに、『おもちゃは飽きたらポイ捨てされる』という言葉が未だに胸に消化されず残っている。


心に深く刻まれてしまった。


ますます腹立たしい。


許せない。














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