ルージュ ~盲目の恋に溺れて~
まるで意味がわからないといった聞き方だった。


私まで狐に摘まれたようになる。


「あいつのおふくろ、亡くなってるよ」


意外な答えが返ってくる。


私の精神が錯乱する。


嘘だ。


そんなはずない。


葵が私を欺くわけない。


「高校の時、病気でさ。葬儀に参列したから覚えてるよ。あいつ泣いてたな。だいぶ弱ってたよ。気の毒に」


耳を塞いだ。


もう、嫌だ。


そんな話、聞きたくない。


これは、何かの間違いだ。


これは全部、店長の作り話だ。


真実のはずがない。


「薫ちゃん?」


心配した口調で店長が私を呼ぶ。


「薫? どうしたの? 大丈夫?」


カウンターの中に入ってきた花音も私に呼びかける。


私はずっと耳を塞いで目を伏せて、二人の顔を直視することができなかった。




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