ルージュ ~盲目の恋に溺れて~
自分の心臓の音が聞こえる。


大きな音を立てている。


自分の心臓の音がうるさい。


「うるさい! うるさい! うるさい!」


叫び声を上げる。


自分が自分じゃなくなる。


今の私はヒステリーだ。


呼吸も乱れる。


呼吸の仕方がわからなくなる。


胸が苦しい。


突然、柔らかくて温かい手が私の背中に触れる。


その手が優しく背中を摩ってくれる。


ほどなくして、心臓音は気にならなくなり呼吸も正常に戻った。


誰の手だろうと思って振り返る前に、こんな声が耳に届く。


「薫、俺がそばにいるから安心しろ」


優の声だった。


優は私の背中を摩り続けた。


その優しさに私は救われた。


「もう、いいから」


喉から声を絞り出す。




 





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