ルージュ ~盲目の恋に溺れて~
やめてもいい。


そう考えると、肩の荷が下りて気分が少しだけ楽になった。


気分転換にテレビでも見よう。


テレビの電源を入れる。


真っ暗なテレビ画面に浮かび上がった映像は深夜放映されている映画だった。


ラブロマンスでアメリカ人らしき男女の白人が深く愛し合っていた。


二人はダブルベッドで裸になって絡み合っていた。


その姿を見て葵と夏子さんに二人の顔が重なった。


今、こうして抱き合っている二人はあの二人だ。


「イヤ……イヤ……イヤァァァァァァァァ!!」


こんなの見たくない。


クッションを裸の男女が映っている画面に投げつける。


「もう、やめてぇ! やめてぇ!」


声を限りに叫ぶ。


映画の中の男が女に行為が終わった後、『愛してる』と言った。


私も言われたことがある。


頭のどこかで葵の声が聞こえる。


愛を囁かれた、あの日の記憶が蘇る。


葵は『愛してる』と耳元に囁いてくれた。


その言葉の重さを私は知らなかった。




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