ルージュ ~盲目の恋に溺れて~
花音の言うことは正しい。


頭ではわかっているのに心が言うことを聞かない。


真っ赤なルージュの女性の正体を知ることを心の中の自分が拒んでいる。


きっと、元カノの作家がルージュの女性だろう。


おおかた、検討はついている。


問題は、それを口にすることができるかどうかだ。


遠藤さんとケンカすることになるかもしれない。


「なんとなく、遠藤さんの元彼女が口紅の人なんじゃないかなあ?」


私は水筒のお茶を蓋の中に注いだ。


それを口につけながら、疑問を花音にぶつけてみた。


花音は、きょとんとした顔付きで私を見た。


「え? なんで? なんで?」


「昨日、元カノの話をされたんだ。W大学卒の女の文学作家」


「さっすが遠藤さん! 男前は付き合う女のレベルが違う。ちょっと、尊敬しちゃった」


「遠藤さんの悪口言っておいて、それはないんじゃない?」


「でも、すごいよ。前の彼女、作家だったわけでしょ? 名前は?」


「知らない。W大学卒の作家で、花音は心当たりある?」


私の問いに花音は天井を見上げると、ぶつぶつ独り言を言い始めた。


「えーと、早乙女舞……いや……違うか……大学どこだった……? まさか、あの黒崎加瑠羅……とか……? 誰だろう? わかんない。でも……いや……あの人も……?」


花音が考えている間、私はゆっくりとお茶を飲んだ。


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