君を救いたい僕ら―愛され一匹狼の物語―
夏樹の席から少し離れた場所で剣道部員が騒ぎ始めた。
「森村、剣道でケリをつけたらどうだ?」
「お前、運動神経いいもんな」
「俺たちが稽古してやるよ」
まだ落ち着かない様子の慎吾は小さく頷いた。

体育の時間、男子は競うように着替え、ベルがなる前から竹刀を構えた。夏樹と良人はそんな一団とは距離を取り、ゆっくりと準備体操をしてから竹刀をとった。
「こうやって構えて、こうだよ」
「うん」
スローペースの二人とは違い、周りの男子たちは防具を身につけて実戦練習を始めていた。特に慎吾たちのグループは練習に熱が入っている。
「おい、渡会!お前も防具つけろよ」
遠くから声がする。
「は?」
夏樹は良人の相手をしながら答えた。
「森村が相手するってさ」
「渡会くん、やめようよ」
良人は夏樹の腕をつかむ。
「別に、森村がやりたいって言うなら、いいけど?」
体育教師は女子の指導でいっぱいいっぱいの様子だ。男子の騒ぎには全く気づいていなかった。

「始め!」
剣道部員が審判になり、試合が始まった。さっそく慎吾は前に飛び出してきた。
「一本!」
慎吾は状況がつかめず、きょとんとして立ち止まった。
「はぁ?!」
「渡会の胴、決まってたぞ」
審判役が困った様子で説明する。どうやら慎吾はそのことに気づいていなかったらしい。
「戻って。三本勝負だから、大丈夫だ」
剣道部員が目でサインを送る。
「あ、ああ」
慎吾は困惑したままふたたび竹刀を構えた。
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