君を救いたい僕ら―愛され一匹狼の物語―
「始め!」
今度は慎吾も慎重だ。剣道部員が合図を送ったのを確認して、喉当てを狙って攻撃を仕掛けた。夏樹は面狙いかと思って避けたが、攻撃は繰り返される。突きばかりを狙う慎吾の動きに面倒くさくなってきた夏樹は、大きな声を出した。
「ヤァー!」
竹刀は勢いよく面を叩き、慎吾はのけぞった。
「一本!」
「これは渡会の勝ちだな」
ギャラリーたちがざわつく中で、夏樹は茫然と立ち尽くす慎吾に耳打ちした。
「突きって、一応中学生は反則だから」
「…あいつらから聞いた」
「あのなあ、素人が勝負なんか挑むんじゃねぇよ」
夏樹は竹刀を下ろして体育館の隅に座った。遠くで防具をつけたままの慎吾が怒り狂っている。
「渡会ぃー!」
「慎吾、落ち着け!」
クラスメートたちは抑えつけるのに必死だ。夏樹は気にせず防具を外した。
「渡会くんって強いんだね」
「裕之さん、イヤ、父親が剣道やってたから、教わったんだ」
「格好よかったよ」
「ありがとう」
夏樹は慎吾の精神状態が悪化していくことを気にしていた。夏樹は喧嘩をするつもりなどないのだが、二人の溝は深まる一方だった。
「俺たちは、もう少し基礎練習しようか」
「うん」
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