君を救いたい僕ら―愛され一匹狼の物語―
それは八年前のある寒い夜のこと。大都会の教会で活動をしていた聖人は日課の散歩をしていた。時にホームレスや酔っぱらいを助けることもあるこの散歩で、聖人は幼稚園児ほどの子どもを発見した。夜中に家出をした少年少女を見つけることはあったが、小さな子どもの姿を見つけたのは初めてだった。
「こんな夜遅くにどうしたの?」
話しかけてみたが、答えは返ってこない。少年はボロボロの服、傷だらけの身体で歩いていた。その様子から虐待を受けていることは明らかだった。
「怪我してるよね?おじさんが治してあげようか」
「いらない」
少年は早足になる。聖人は歩調を合わせた。
「どこへ行くの?」
返事はない。少年に行くあてはないようだ。
「とりあえず、そこの教会で休まないかい?」
「お母さん…知らない人に…ついてったらだめって…」
少年の言っていることは正しい。そこで聖人は作戦を変更した。
「よし、じゃあおまわりさんのところに行こう。そこなら、お母さんも怒らないだろ?」
少年は納得したらしく、聖人の後ろをついて歩いた。聖人は近くの交番に少年を預けた。

「名前は?」
「わたらいなつき」
「年は?」
「ろくさい」
少年の受け答えははっきりしていた。
「どうやら、この近くのアパートに住んでいる子どものようですね」
警官は地図を指さした。
「この辺りは近所づきあいがあまりないから、虐待に気が付かなかったんでしょうな」
「そうですか」

そこに近隣住民が数人駆け込んできた。
「お巡りさん、大変だよ!あそこのボロアパートが燃えてんだ」
「消防に電話はしたのかい?」
「したさ。すぐに来るって、ほら、サイレンが…」
突然鳴り響くサイレンに夏樹は耳をふさいだ。
「怖くないよ、大丈夫だ」
聖人はそっと夏樹の手を握った。
「ボロアパートってまさか、さくら荘じゃないだろうね?」
「ボロっていったらさくら荘に決まってるじゃないか」
「隣に燃え移らないか心配だよ。なにせ隣は去年建て替えたばっかりだから」
警官は地図を見返して頭を抱えた。夏樹が住んでいたのは、まさにそのさくら荘だったのだから。

アパートは全焼し、住人の一人が亡くなった。亡くなったのは火元の部屋に住んでいた渡会実花。タバコの火の不始末が原因だった。
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