君を救いたい僕ら―愛され一匹狼の物語―
八年前のことを裕之ははっきりと覚えていた。
「あの時の…来栖聖人さん…ですか?」
「はい。お久しぶりです」
仕事が忙しく夏樹と話す時間のなかった裕之は、夏樹に新しい友人ができたことを知らずにいた。もし知っていれば、それが聖人の息子であるとわかったかもしれない。
「じゃあ、夏樹が突き落としたというのは…」
「海に落ちたのは私の息子ですが、突き落としたというのは出鱈目ですよ」
聖人はニコニコと笑ってみせた。
「では、どうして夏樹が警察に?」
「僕も詳しくはわからないのですが、息子はある事件を調べていると話していました。それと関係しているのだと思いますよ」
「瀬名さんの事件ですね」
裕之はひと月前の事件のことを振り返る。思えばあの事件の翌日も、夏樹は警察に呼ばれていた。
「夏樹くんは犯人ではない。息子はそれを証明したかったのでしょう。私も同じ気持ちです」
「来栖さん…」
裕之の携帯が鳴り出した。
「もしもし。今、ですか?すぐにと言われましても…」
それは仕事の催促の電話だった。聖人は裕之にサインを送った。
「息子さんのことは、僕にまかせてください」
笑顔を見せる聖人に裕之は甘えることにした。
「わかりました、すぐに向かわせて頂きます」
電話を切ると裕之は深く頭を下げて警察署を出た。
「本当に忙しい人だなぁ…もっと夏樹くんと話をすればいいのに」
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