君を救いたい僕ら―愛され一匹狼の物語―
家には裕之が先に帰っていた。玄関の扉の開く音に、裕之はすぐに気がついた。
「夏樹」
「ただいま」
少しつかれた様子の夏樹を見て、思わず裕之は夏樹を抱きしめようとした。しかし、夏樹はその手を押しのけた。
「迷惑かけて、ごめんなさい。俺、これ以上裕之さんに迷惑はかけられない。高校からは自分の力で通うから」
そのまま部屋へ向かおうとする夏樹を裕之は引き止めた。
「待ちなさい。夏樹はどうしてそんなふうに言うんだい?」
「それは…俺は別に裕之さんの子どもってわけじゃないから…」
「何を誤解しているのかな?」
裕之は夏樹に詰め寄った。
「夏樹は正真正銘、僕の息子なんだけど?」
「そりゃあ、養子に入って息子にはなってますけど…」
「そうじゃなくて!」
夏樹は何を言われているのかわからず、混乱していた。
「元はといえば実花が君に父親のことを説明しないから…」
「実花さんっていうのは、裕之さんの妹なんですよね?」
「違う!なんでそういう理解なの?!実花がそう言ったの?」
夏樹が頷くとようやく裕之は事態を理解した。
「ああー。それで君は僕をお父さんと呼んでくれないんだね」
「あの、本当はどういう関係なんですか?」
夏樹はもしやという思いで尋ねてみる。
「実花と僕は結婚していたんだよ。僅かな期間だけど」
「…夫婦?」
「元、ね」
「……裕之さんは、じゃあ」
「父親だよ、君の」
夏樹は全身の力が抜けてその場に座り込んだ。
「なに、それ」
「何回も言ったでしょ、君の父親だって」
「そういう意味だと思ってなかった…」
呆れて裕之も近くにあったソファーに倒れこんだ。
「気づいてよ…」
「裕之さんこそ…」
この夜、初めて父と子の誤解が解けたのだった。
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