君を救いたい僕ら―愛され一匹狼の物語―
 文学部の定例会は毎週水曜日。しかし、僕が興味を持ったのは渡会先輩が週に一度行うという絵本の読み聞かせだ。そもそも文章を書くことにはさほど興味がない僕が文学部員として活動するためには、読み聞かせボランティアはいい方法かもしれなかった。僕は二度目の定例会が終わったあとで、渡会先輩に相談することにした。

「次の読み聞かせ、見に行ってもいいですか?」
「いいけど……」
 渡会先輩は言葉を濁した。そしてしばらく考え込んだ。
「菅原くんは別に俺達の真似しなくていいんだよ。自由にやっていいのが文学部なんだから」
 渡会先輩の言葉に、僕はすぐに返答することが出来なかった。真似しなくていい、というのは拒絶なのだろうか。
「渡会、見学くらいいいだろう」
 遠くから叫んだのは森村先輩だ。
「まさか、自分が子どもの相手してるのを見られるのが恥ずかしいのか?」
 渡会先輩はその言葉を耳にして森村先輩を睨みつけた。
「何だって?」
「後輩の前で怒るな。とにかく、金曜日つれてってやれよ」
 渡会先輩は溜息をつくと、僕の方を向き直した。
「金曜日、授業終わったらうちのクラスに来てくれる? 案内するから」
「はい」

 約束の金曜日、僕は駆け足で渡会先輩のクラスに向かった。今度は校舎内で迷うことはなかった。
「じゃあ、行こうか」
 大きなかばんに絵本や紙芝居を入れて、渡会先輩は歩き出した。そして着いたのは市立病院だった。
「ここの病院、うちの学校の院内学級があるんだ。絵本の読み聞かせは幼児向けだけど、時々中学生の子と話すこともあるよ」
 渡会先輩は慣れた様子で病院の中を進んでいく。院内学級のあるフロアに行くと、そこには病気と闘っている子どもたちが待っていた。
「あー、なつき兄ちゃん」
 子どもたちは渡会先輩の顔をしっかり覚えているらしい。一人が声を上げると、続々と子どもたちが集まってくる。
「そっちのお兄ちゃんは?」
「すがわら、ゆうりくん」
 渡会先輩は子どもに分かるようゆっくりと答えた。いつものぶっきらぼうな話し方とは明らかに違う。
「ゆーり兄ちゃんかぁ」
「よろしくおねがいします」
「今日は何のお話かなぁ?」
< 36 / 41 >

この作品をシェア

pagetop