君を救いたい僕ら―愛され一匹狼の物語―
 わくわくしている様子の子どもたちを絨毯の敷かれたプレイルームに誘導し、渡会先輩は絵本を読み始めた。それまで騒いでいた子どもたちはじっと声を聞いている。話が終わると、今度は子どもたちがおもちゃを持ち寄って渡会先輩にじゃれついている。
「ひっさつ、スーパーパンチ!」
「こら、危ないだろ」
 遠くでヒーローごっこをしている子供を見つけた渡会先輩は大声で注意をした。自分の周りにいる女の子たちに折り紙を教えながら、男の子の面倒もきちんと見ているのだ。僕はただただ感心してしまった。

「お兄ちゃん、すごろくしようよ」
「あ、うん」
 僕も小学生の子供達に誘われてすごろくを始めた。久しぶりに小さな頃に戻ったような不思議な感覚に囚われた。しばらくすると、病院のチャイムが鳴った。
「今日はここまで」
 渡会先輩の声がプレイルームに響くと、子どもたちは申し合わせたように整列を始めた。
「それじゃあ、また来週ね」
「ありがとうございました!」
 子どもたちは礼儀正しくおじぎをして僕らを送り出してくれた。

 病院を出ると、渡会先輩はいつもの無表情に戻ってしまった。僕は静寂を破って話しかけた。
「あの、今日はありがとうございました」
「俺がやってるのは、こういうことだから。菅原くんは別なことをやっていいからね」
 定例会の日と同じような答えに僕は戸惑った。しかし、僕の心は決まっていた。
「これから、お手伝いとか、してもいいですか?」
 渡会先輩は少し驚いたような素振りを見せた。そして、しばらく歩いたところで頷いた。
「来たい時に来ればいい」
「はいっ」
< 37 / 41 >

この作品をシェア

pagetop