君を救いたい僕ら―愛され一匹狼の物語―
「……なるほど、菅原くんは夏樹くんと読み聞かせをする気なのね」
 図書室には定例会の日でないにもかかわらず二人があった。
「くくっ。それにしても渡会くんはそっけないねぇ」
 話をしているのは文学部部長・竹内晶と副部長・川越将志だ。
「もう少し優しく接してくれたらいいんだけど」
 晶はため息をついた。しかし、将志は楽観視しているようだ。
「じきに心を開くんじゃないかなぁ。菅原くんに期待しようじゃないか」
「そうねぇ」
 晶は活動記録ノートに今日の出来事を書き綴った。夏樹と悠里の行動は全て監視されていたのだ。
「この二人からは目が離せないわ」

 僕は家に帰るとすぐに台所へ行き、大量の水を飲んだ。緊張で喉が乾いて仕方なかったのだ。
「どうして、こんなに緊張しちゃうんだろ……」
 それは先輩後輩という上下関係からもたらされる緊張ではない。それは今まで可愛い女の子を見かけたときに感じていたようなドキドキと同じだった。
「おかしいな……」
 僕の心は男のはずだ。ドキドキする相手は女の子のはずだ。カッコイイ俳優を見たってこんな気持ちになったことはない。男性にときめいている自分は、やはり女性なのだろうか。
「そんなはずは……」
 ぐらつく性別の感覚。もはやそれを否定することは出来なかった。

――僕は、渡会先輩に恋している。
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