君を救いたい僕ら―愛され一匹狼の物語―
長い夏休みが明けても状況は変わらなかった。誰もがあからさまに夏樹のことを避けている。夏樹の席は窓際の一番後ろ。すなわち教室の隅、掃除用具入れの前だ。たまに掃除用具が机の上にぶちまけられていたりするのは、単に掃除用具入れの扉の閉まりが悪いからではないだろう。今日は靴も机もいたずらはされていないが。

始業式の前に、担任がウキウキした様子で教室へとやってきた。
「転入生を紹介します」
やけにテンションの高い担任が連れてきたのは色白の少年だった。
「来栖良人くんだ」
その顔を見て夏樹は小さく声を漏らした。
(あの時の!)
「来栖良人です。父の仕事の都合で引っ越してきました。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると今度はこちらを見て手を振り始めた。
「渡会くーん」
その名前を聞いて教室がざわついた。
(なぜ名前まで知ってるんだ?)
「来栖は渡会とは知り合いだって言ってたな。ちょうど隣の席が空いているから座りなさい」
「はいっ」
小柄で色白な美少年に女子たちが目を輝かせる。来栖はそんなことはお構いなしで席についた。
「よろしくね、渡会くん」
良人は夏樹の胸ポケットを指差した。
「優しい人で良かったー」
そこに入っているのはあの日もらったネックレスだ。なんとなく毎日制服の胸ポケットに入れていた。来栖にはそれが嬉しかったらしい。
「来栖くん」
はしゃいでいる来栖に近づいてきたのは森村慎吾。このクラスのリーダーだ。
「渡会にはあまり関わらない方がいいよ」
「どうして?」
良人の真っ直ぐな視線にたじろぎながら、慎吾は続けた。
「人殺しだからだよ」
「人殺し?渡会くんが?」
「そうだよ…そうに決まってる。みんな疑ってるんだ」
「勝手にしろよ」
夏樹が吐き捨てると慎吾は一層厳しい表情を浮かべた。
「渡会くん…僕は…」
「一応忠告したまでだ。どうなっても俺は責任とらないからな」
慎吾はそう言って自分の席に戻っていった。
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