ダメ男依存症候群 ~俺は彼女に中毒症状~
 あとちょっと……って時だった。


「旬」


 うおっ!?


 ナツの顔がいきなり俺の方を向いた。


 俺はものすごい勢いで手を引っ込めて、スクリーンの方に向き直った。


「何? どうしたの?」


「いやっ……別に何も……ナツこそどうしたの?」


 鎮まれ俺の心臓! 泳ぐな俺の目!


「どうしたのって……映画終わったから……」


「あ……」


 ふと気づいたら、いつの間にか、映画は終わって、客がぞろぞろと帰っていくところだった。


「そっか……じゃ、出よっかっ」

 俺は慌てまくって、急いで立ち上がった。


「うん」

 ナツは不思議そうに首を傾げていたけれど、別に気にしてはいなかったみたいだった。




「面白かったね、映画」

 映画館を出た後、ナツは笑顔でそう言った。


「うん。面白かった」

 俺もそうやって頷きながらも、最後の方はあまり覚えてなかった。


 ていうか、俺のバカヤロー……


 何で手ぇ引っ込めたんだよ!? 何でそんなうろたえてんだよ!?

 ナツがこっち向いたからって、そのまま手ぇぐらい繋げばよかったのに!



「お腹減ったね。お昼どうする?」

 ナツのその声で俺は我に返った。


「あ、うん。どっか店入ろっか」


 その時、ふとナツの手を見た。並んで歩いて、俺側にある手を……


 いつもは、必ずといっていいほど鞄を持っている。


 でも今は、何もなかった。


 これはチャンスか!? なかなか手を繋げない俺の為に与えられたチャンスなのか!?


 だとしたら、繋ぐしかない!

 さっきみたいに無駄に躊躇うな! 一気に行け!


 俺は自分に気合いを入れて、手を伸ばした。


< 125 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop