ダメ男依存症候群 ~俺は彼女に中毒症状~

「あ」

 ナツのその声と同時に、俺の目標としていた手が消えて、俺は空振りしてしまった。


「あのパスタ屋、すごく安くて美味しいの」


 ナツは、道の向こうに見える店を指差していた。


 そう。俺が掴もうとしていた、その手で。


「お昼、あそこにしよう」


「うん……」



 神様。これはイジメですか。


 俺はもう泣きたい気持ちだった。




 パスタ屋に入って、メニューを見てみると、本当に安い。一番高いのでも九百円しないほどのものだった。


「旬、どれにする?」


「んー……どれにしよ。ナツは決めた?」


「あたしはたらこクリームにする」


 たらこクリーム……六百八十円か。

 無意識にメニューで値段をチェックしてしまう。


「じゃあ俺、ツナマヨ」


 これは六百五十円で、ナツが頼んだのと同じぐらいだ。


 合計千三百三十円。


 これなら俺でも払える。丁度昨日給料入ったとこだし。




 ナツと手を繋げないということ以外に、ナツが俺のことを彼氏として扱ってくれてるのか不安な要素がある。


 それは、こうやってナツと食事とかする時に、必ずと言うほどナツが俺の分まで払ってしまうことだ。


 ナツは、いつも俺が出すって言ってんのに、さっさと払ってしまう。

 そうじゃなくても、割り勘だ。


 確かに、俺はフリーターだからあんまり金がない。しかも、ナツより年下だし……


 でも、そんなことで彼女に払わせるなんて、彼氏として格好がつかない。


 ていうかナツに年下扱いしてほしくない。


 だから今日は意地でも俺が払う!

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