ダメ男依存症候群 ~俺は彼女に中毒症状~

「どうしたの?」

 気になって、あたしは尋ねた。


 旬君は、悲しそうな目であたしを見て、言った。


「ナツ、ごめん……バイト入っちまった」




「本っ当ごめん! こっちから誘っといて……マジでごめんな!」


 デートが打ち切りになって、旬君はあたしを家まで送ってくれている。

 でも、さっきからこんな調子で謝ってばっかりだ。


「いいよ、そんなに謝らなくても」

 謝られても、あたしは別には腹の立てようがない。


「だって、バイトでしょ?それならしょうがないよ」


 そうだ。しょうがない。いきなり入ってしまったのなら、旬君が悪いわけじゃないんだから。


 そうやって分かってて、別に腹が立ってたりするわけじゃない。でも、あたしは、どうもすっきりしないというか、沈んだ気持ちでいた。


 多分それは、旬君がバイトだと聞いて、あの時間が終わることを思って、残念に思った自分がいたからだ。


 あたし自身も驚いた。


 そして今、何でもないフリをしている。


 あっという間に、あたしのコーボの前まで来てしまった。


「じゃあ……バイト前なのに、送ってくれてありがとう」

 あたしは、立ち止まって、旬君に言った。


「ううん。まだ時間あるから……」

 旬君はそう言うと、少し寂しそうな顔になった。


「ナツ、あのさ……」

 口を開いた旬君を、改めて見上げた。


「今日、付き合ってくれてありがとな。俺、すっげー楽しかった」

 旬君は、表情を明るくして、笑顔でそう言った。


 そっか……

 楽しかった、か……


「あ……あたしもっ」

 知らない間に口をついていた。

 この先に続く言葉が恥ずかしいと気付いて、あたしは下を向いた。


「あたしも……今日、楽しかった、よ……」

 自然と声が小さくなったけど、それがあたしの正直な気持ちだった。


 あたしも楽しかった。

 旬君に会うのはまだたったの三度目で、旬君のことは殆ど知らない。そんな相手と一緒にいてそう感じることはないと思ってた。なのに、今日はとても楽しくて、今日が終わるのが寂しいと思う自分がいる。

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