美加、時空を越えて
暫く沈黙が続く。
美加が大きく深呼吸する。
思い切ったように口を開く。

「さっき一瞬だけどそう思ったわ。
自分でもまだ信じられないけど」

「先生はそれでひどく悩んでいました。
私は たまたま 先生が時空の扉でタイムスリップした
時代にいました。
そこで偶然先生に会って。
悩みを相談されたんです。
奥さんから、過去の自分ではなく今の自分を愛して欲しいって。
過去の自分を憎み始めていた。
『妻が僕の責任で死ぬんだって言ったら
あいつは……。過去の自分は……、
じゃあ、もっと若いのと結婚すれば済む事だなんて言う。
あいつは何も分かってないんだ。
本当に信じられない。
彼は本当に過去の僕なのか?
僕はあんな薄情な、人で無しだったのか』って。
それに研究を世の中に送り出すのは
やはり自分にしか出来ない、とも言っていました」

悩んでいた時 過去を少し変えてしまいましたし……。
先生にも色々あって……。
それでも、当初の予定通り、あの事故があった車の助手席に乗りました。
奥さんではなく、先生が。
そして私が 過去の先生と奥さんの記憶を消したんです」
……。そうですか。美加さんでもそうなるんですね……。
守さんを完全に自分のものにしたいって。
もうこの話は止めましょう。
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