穢れなき雪の下で
「俺以外の誰かにも同じセリフ言ってみたら?」

三秒ほど、間が空いた。
目を丸くしている彼女の顔が、脳裏に浮かぶ。

「えー?
 イチロー、美味しい料理に興味ない?
 そっか。
 じゃあいいや。
 ほかを当たってみる」

忙しのにごめんね、と。
ミユは今にも電話を切りそうだ。

残念ながら、そこに、俺に対する未練なんて微塵も感じさせてはもらえない。

「――わかった。
 感謝はしないけど、ディナーは一緒にする」

俺はあわてて、でも、それがばれないようにあえて不機嫌な声で、そう口にしていた。
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