カテキョにぞっこん!
陽サマは不意に立ち上がる。
照れを隠すつもりだったのか、真面目な雰囲気に戻って……
「来週からは新学期です。時間が夜に変更するので、確認しておいてください。……由利さん?」
だけど私は、何も言葉を返さずに一人で坂を降りた。
私も今の顔は見られたくなかったし
陽サマも少し戸惑った感じだったけど、別に追いかけてくることもなくて。
この日はもう、何も口を利かないまま終わった。
窓の外を吹く風も、
少しは変わったんだろうか。
聞こえてくる音はもうセミの声なんかじゃなくて、
秋を伝える虫の音。
夜の色がその雰囲気を一層幻想的なものにして、私の気持ちを切なくさせる。
短く感じた夏休みはあっという間に過ぎて。
私はまた、陽サマの隣で、陽サマのいる空気にドキドキしながら問題を解いていた。
以前のような、ワクワクはしゃげるドキドキなんかじゃないよ。
もっとお腹の辺りが苦しくなるような、重くて辛い、ドキドキなの……
「由利さん、そこ違います」
「…………」
あれから私はずっとこの調子。
声を出すこともしないで、私はその問題を消してやり直した。
変だよね。
なんだかわからないけど、つい反抗的な気持ちになってしまう。
陽サマを、
困らせようとしてしまう。
恋って……こういうものなの?
「ちょっとやり方が違います。僕がやるので少し見ててもらっていいですか」
ほんのちょっと私の様子を伺いながら、それでも陽サマはいつもと変わらなくて。
私が見えやすいように、ノートの向きを調節しながら問題を解いていく。
陽サマのそんな仕草に、私はまたドキドキするくせに
それを見ようともしないで目を逸らして……
大人な陽サマに対して、私はすごく子供だ。
恋なんてすること自体
間違ってるんだ。