魔王と王女の物語
騒ぎを聞きつけたカイが近衛兵たちを伴って慌てて外に出て来ると、


小さなお姫様はリロイの頬を叩きながらカイを見上げた。


「お父様!えと…、あのね、リロイと森で遊んでたの。そしたらね、悪い人が来て…」


ラスが森を指すと、カイはラスを抱き上げて頬にできた擦り傷を指で撫でた。


「で?それをリロイが倒したというわけだね?さすがは未来の“白騎士団”の隊長候補だ。さあ中へ入ろう、お母様が心配しているよ」


森へ入った近衛兵が、がんじがらめに蔦に絡まった暴漢を引きずりながら現れて、男が喚き散らす。


「影が…、影が!!」


「…影?」


「お、お父様、早く中に入ろうよ!リロイを休ませてあげなくっちゃ!」


愛娘に急かされて、不審に思いながらも城内へ引き返し、

王室付の薬師から治療を受け、手足や頬にできた傷に薬を塗ってもらうと、そのまま自分の部屋に連れて行かれてベッドに押し付けられた。


「大丈夫だよ。全然痛くないから」


「駄目よ、女の子なのだから傷でも残ったら大変だわ」


父と同じ金の髪にグリーンの瞳。

世界で一番強大なゴールドストーン王国の姫として引く手あまただったが、


魔王を倒したカイと恋に落ち、そして国を継いで自分が生まれた。


自慢で仕方のない両親。


「ねえお母様、勇者様と結婚できて幸せ?私の前にも勇者様は現れると思う?」


――代々ゴールドストーン王国からは世界を救う勇者が輩出されることで有名で、

その度にその時の王が国を譲り、勇者が王の座についた。


それまではその時の家系の者で国は動かされてゆくのだが、


ラスは夢見る女の子の瞳で勇者と出会い、結婚した母の手を握ると答えを待つ。


「そうね、あなたにもあなただけの勇者様が現れるわよ。ただし、あんまりお転婆しては駄目よ、じゃじゃ馬さん」


おしとやかな母に“めっ”と言われると笑い合い、部屋を出て行くと笑みが込み上げてきてばたばたと脚を動かした。


『こら、暴れるな』


「コーも勇者様が現れると思う?私だけの勇者様が!」


『さて。案外俺だったりして』


「その冗談面白い!」


『…』

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