魔王と王女の物語
コハクが作ったキノコのスープは少しピリ辛で、ぽかぽかと身体が温まる。

パンにチーズを乗せてかじりながらまたコハクの脚と脚の間に挟まって座り、たき火の炎が揺れるのをずっと見ていた。


「お父様とお母様…元気かな。会いたいな…。ねえ、コーのお父さんとお母さんは元気なの?」


「俺?俺は捨て子だったから父ちゃんとか母ちゃんとか居なかったし」


――皆が目を見張った。


魔王の出生について…

そして出身や家族についてはヴェールに包まれていて、誰も聞いたことがない。


ティアラとリロイが耳を澄ませながらも気付かれないように手遊びをしたりしていると、ラスの身体に腕を回してさらに密着させながら小さく笑った。


「捨て子って…コーは誰に育てられたの?どこに捨てられてたの?」


「“水晶の墓場”。水晶ってのは元々強力な魔力を蓄えていて、それが尽きると使い終えた人間たちがそこに捨てていくんだ。ま、俺は生れた時から用無しだったってわけさ」


「そんな…コー、ごめんね、言いたくなかったよね?」


真向かいに座るとぎゅっと抱き着いてきたラスに、暗い話をしたというのに魔王、にんまり。


「べっつにー。俺のお師匠が拾ってくれてさ、一人前に育ててくれたんだから、俺としちゃ儲けもんってわけ。それに…イロイロ教えてくれたしさ。イロイロな…」


くつくつと笑いながら、しゅんとなってしまったラスの顎を取ってちゅっとキスをしたが、ラスはしょげたままだった。


「おいチビ、今の“イロイロ”に突っ込んでくれよ」


「コーは幸せだった?…私の影になって…幸せだった?」


何を言うかと思ったら…


…可愛いじゃん!!!!


――と叫びたい気持ちを抑えつつ、リロイが睨んでいるのも気にせずにまたキスを繰り返して頭を撫でた。


「そりゃ幸せさ。お師匠が俺を一人前の魔法使いにして、俺は魔王と呼ばれるまでになって、チビの影になってさー。俺の夢はあと1つだけ。何かわかるか?」


「ううん、わかんない。なに?」


「内緒ー。俺の城に着くまでにお師匠の家もあるし“水晶の墓場”もあるし寄り道してこうぜ」


「うん!」


明るいラスに、何もかも救われる。
< 121 / 392 >

この作品をシェア

pagetop