魔王と王女の物語
魔王は“水晶の墓場”出身――

密かにティアラとリロイは衝撃を受けていた。

あの場所は、曰くつきだ。

力を無くした水晶の墓場ではあるが、まだ魔力が残ったまま捨てられることも多い。


より濃度の濃い魔力が集まる場所。

魔王は、そこに捨てられていた。


ということは…

水晶の強力な魔力が、赤子の時の魔王の身体に流れ込んだ可能性も否定できない。

だからこんな大きな力を自在に奮うことができるのではいだろうか?


――それはあくまで憶測だったが、パンをちぎってやりながらラスの口に放り込んでいる魔王は…純粋にラスと一緒に居ることを楽しんでいるように見える。


「チビ、もっとスープ飲めよ。飲ませてやろうか?」


「うん」


「俺もチビに飲ませてほしいなー」


「スープをでしょ?違うの?」


「秘密ー」


ラスで遊んでいる魔王と目が合った。

慌ててティアラが視線を逸らすと、くつくうと喉で笑う音が聞こえた。


「俺に見惚れてたのか?ざんねーん、俺はチビのものだからー」


「な、なにを馬鹿なことを…!誰がお前なんか!」


「あ、コー、リスさんだ」


――ラスのドレスの裾を引っ張っているリスが、手にしていたパンを物欲しそうに見ていたので、口に入る大きさにちぎってやってその手に沢山乗せてやったラスにリスがおじぎをした。


「可愛い!コー、あのリスさんも魔物なの?」


「ちょびっとだけな。なあチビ、もう寝ようぜ。早く抱っこさして」


コハクがマントを開く。

細い均整な身体はシャツ越しからもよくわかり、早速抱き着いてみたが…固い。


「コー、固くて眠れないよ。なんでこんなにごつごつしてるの?」


「男だから。寝りゃ気になんねえって。さあおいで」


「…じゃあ僕が番をする。…おやすみ」


ティアラが返事をして、リロイのすぐ隣に毛布をかぶって寝転がった。


コハクはしっかりとラスを抱きしめて、指を鳴らした。


「今何をしたの?」


「おまじないー」


魔物が来ないように結界を張ったことは内緒。


知らずに朝まで番をしていたリロイを苛め抜く気満々だった。
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