魔王と王女の物語
はじめての野営だというのに…ラスは早速うとうとしはじめていた。

コハクはいつもラスが眠るまでは絶対に眠らない。

第一こうして影に戻らずにずっと傍にいるのも、ラスが16歳になって成人女性として認められてから。

自分を“男”として認めてもらいたいから。


…未だそんな思いは全く伝わっていないようだが、それでもちょっと姿をくらませると必死になって捜すラスの姿がたまらなく愛しい。


「…影はロリコンなのか?」


「ああ?お前今なんっつった?」


肘を突いて頭を支え、ラスはそんなコハクの身体にぎゅっと抱き着いたままうとうとしていて、

そんな暴言を投下してきたリロイに険のこもった声で返すとリロイも負けなかった。


「お前は生まれた時からラスと一緒だろ?小さな頃から見てるのに花嫁とか…ロリコンじゃないとそんな発想無理だろ」


「ばっかじゃねえの?ちっさい頃から俺好みに育てていったんだぜ。ま、まだまだ育ってもらわねえといけない部分もあるけどな」


――その2人の会話はラスにはあまり聞こえていなかった。

コハクの体温が気持ちよくて、うとうとしながらシャツを握り、胸に頬を摺り寄せる。


「コー…まだ寝ないの?」


「つーかチビはまだ寝ないのか?むっちゃ疲れて眠たくなるようなことしてやろうか?」


「眠たいもん…。コー、もっと抱っこして」


「はいはい。チビは俺が居ないと夜も眠れないんだなあ」


「うん…コーが居ないと眠れな……」


会話の途中で寝入ってしまい、ドレスからちらっと見える胸の谷間に密かに大コーフンしながら布団を首までかけてやってリロイから隠した。


「で、俺がロリコンだって?チビだからだぜ。それにさっき俺の出自に興味持ってただろ。チビにしか話さねえからな」


「お前の師匠とやらも大変だっただろうな。言っておくけどお前が影から出て行ったらラスは絶対に連れて帰る。絶対だ」


――魔王の赤い瞳が不気味に明るく輝いた。

そうしながらにやっと笑い、気持ちよさそうに寝ているラスの金の髪を撫でた。


「やってみろよ。細切れにして魔物の餌にしてやる。俺とチビの邪魔は誰にもさせねえよ」


誰にも渡さない。
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