魔王と王女の物語

魔王の本性

晴天が続き、窓を開けるととても良い風が吹いて半ばピクニック気分だったのだが…

午後になって、急に霧が出てきだした。


「2m先すら見えない。慎重に進んで行こう」


「この先に小さな町があります。そこで情報収集をしましょう」


町を越えるとその先には…崩壊したホワイトストーン王国がある。

がれきの山から砕け散った聖石を捜すのは骨が折れる作業だが…魔王を倒すためには絶対に手に入れなければならない。


「また俺ばっか見てさあ、キスしてほしいならそう言えよ。バージンには優しくするぜ」


「ふっ、ふざけないで!私の魂と身体は神に捧げるのよ!」


「バージン?“はじめて”って意味だよね?コーがティアラのバージンをどうするの?何のバージン?」


“子供はコウノトリが運んでくる”


そんなおとぎ話を素で信じているラスが言葉の意図を読み取れるわけもなく、

魔王はラスを膝に乗っけると腰を支えてゆさゆさと揺らした。


「こーんなことをしたりさ。ちなみに服は着な…」


「魔王!ラスを穢すのはやめなさい!」


「俺に命令するのか?小僧とは違う痛い目に遭わせてやるぞ」


くつくつと笑い、赤い瞳が蠱惑的に光り、一瞬ティアラは意識を失いかけた。


だが…

ラスには全く通じずにコハクの瞳を真っ向から見つめていた。


「喧嘩はやめてね。ねえコー、霧がすごくて寒くなってきたね。リロイ大丈夫かな」


「小僧の心配なんざすんじゃねえよ。しかしあれだな。この霧は…自然現象じゃないな。面白いことが起こりそうだなあ」


楽観主義の魔王が窓から右手だけを出して風に触れた。


…粘着質の、まとわりつくような風だ。

辺り一帯が霧に包まれて、ティアラとラスが不安そうに身体を寄せた時――


「町が見えたよ。だけど…」


「?どうしたの?」


引き返してきたリロイは…魔法剣の柄に手をかけていた。


「ベルル、ちょっと先に行って見て来い」


「わっかりましたー」


唇を尖らせながらベルルが霧の中へと消えて行く。


「面白いぞ。俺以外の魔法使いが居るかもしれないぞ」



ラスたちは目を見張った。
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