魔王と王女の物語
その小さな町…メルリンは、緩やかな坂に沿って町が形成されていた。


石畳に煉瓦作りの家…そして、霧に包まれた町。

…通りには人1人、歩いていない。


「どうして誰も歩いてないんだろ?」


「ここに住んでるはずなんだけど…ちょっと見てくるよ」


リロイの姿があっという間に霧の中に消えてしまい、ラスは心細くなって隣のコハクのマントを握り、反対の手でティアラの手を握った。


「まさか魔物に襲われたんじゃ…」


「ま、とりあえずどこでもいいから中に入ろうぜ」


1人まるで緊張感のないコハクがラスの肩を抱いて『カフェ』と書かれた店のドアを開けて中へ入ると…やはり、誰も居なかった。


だが埃ひとつ落ちていないので、この町に何か突然災いが降りかかったとしか思えなかった。


「チビ、霧のせいで身体が冷えたろ?俺が何か作ってやるよ」


「ありがとう。でもまだリロイが帰ってきてないし…ドアを開けてたらわかるかな」


傍から離れてリロイを心配するラスにむかっとしつつ、同じくリロイを心配しながら窓から外を見ているティアラにちょっかいを出した。


「なあ、神に身も心も捧げるってことは…小僧のことは諦めるのか?“勇者様”かもしんねえのになあ」


「お前には関係ないわ。私に興味を持たないで、不愉快よ」


――魔王はそれしきでは怒らない。

暴言を吐かれて逆ににやにやすると、テーブルについているティアラの前にホットミルクらしき飲み物を置いて前に座る。


「ふうん、じゃあこれからも物欲しそうな目で小僧を見てさあ、脳内でエロいことしまくってさあ、それで満足?そんなの健全じゃないぜ」


テーブルの下で魔王の長い脚がつっと動き、ティアラのローブを少しずつ捲っていき、慌てて脚を払いのけたが…

きっと睨むと、コハクは例の妖しすぎる微笑を浮かべて自身の唇をぺろりと舐めた。


「わ、私を見るのをやめなさい!」


「見てるだけじゃん、ツンデレには興味ないって言ったろ」


そう言いつつ今度は手がテーブルの下に伸びて太股に触れられて、手を振り上げた。


「おっと」


「触らないで!」


魔の手が伸びる。

夢中で、逃げる。
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