魔王と王女の物語
まだコハクの姿を2度しか見たことがなかったが、


コハクが褒めてくれるととても嬉しい。


人前でコハクと話すことは厳禁だったので、ラスも必要以上にコハクには話しかけない。


だが先ほどコハクにも城があると聞いて、ラスは興味を抑えられなかった。


「コーのお城ってどんなお城?ここよりすごいの?」


『俺は居心地いいけど、世間一般で言うと気味が悪いみたいだな。それにちょっと不便が悪いけど、飛べばひとっ飛びだし、不自由はさせないぜ』


「?ふーん…でもやっぱり私はここが1番大好き!ねえ、どうして10年後にコーのお城に行かなきゃいけないの?」


純粋な質問をしただけなのだが、またくつくつと影が笑い、とぼけた答えが返ってくる。


『10年経てばチビは16になるよな?いろんなところが育ってさ、大人になるだろ?俺はそれを待ってるってわけ』


「待ってどうするの?」


『そりゃあ美味しく頂くに決まってるだろ』


「私を?コーって人を食べるの!?」


思わず自分の影から後ずさりしたが…

もちろん自分の影なので、離れるわけがない。


――グリーンの瞳を真ん丸にしたラスに、さらに声を低くしておどろおどろとした雰囲気を演出しながらコハクは囁いた。



『さあて、どうだかな?それよかチビ、昼寝の時間だろ?早く寝て早く育てって』


「あ、うん…。コーの言ってることがよくわかんないのは私が子供だから?」


言われた通りベッドに潜り込みながら影に手を伸ばすと…


にゅうっと影から手が出てきて、細く白く長い指が手の甲を撫でた。


『まあそういうこと。チビらしいしいいじゃね?必要なことは俺が教えてやるからさ』


親指で何度も手の甲を撫でられて、人のあたたかさが伝わってきて睡魔に襲われたラスは、そのまま眠り込んでしまった。



『俺が本当の身体に戻ったら覚悟しとけよ。そりゃもうあんなことやこんなことを…ふふふふ』



…魔王の頭の中はヘンタイなことでいっぱいだった。

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