魔王と王女の物語
「グラースと私の名前似てるね。ちょっと嬉しいな」


途中休憩を挟み、立ったまま腰に下げていた革袋から水を飲んでいるグラースの隣にラスがべったりくっついていた。


「全然似てねえよ」


それに答えたのはなぜか魔王で、

本来ならグラースのような美女を放っておくわけがないのだが、妖精の女王から感情を奪われているせいで表情の動かないグラースには全く興味がなかった。


「チビ、こっち来いって」


「やだ、グラースとお話してたいもん」


「つーかそいつ全然喋ってねえじゃん。俺と話してた方が楽しいと思うなー」


必死にラスの気を引こうとしている魔王がどこか可愛らしく、ついティアラがくすっと笑うと、

2人で馬車に寄りかかっていたリロイが腰を屈めてこそりと耳打ちをしてきた。


「ああいう所は無邪気ですが…気を付けてください。時々あなたをいやらしい目で見ているから」


「え…そうなんですか?全然気づかなかった…」


耳元で囁かれたせいででくすぐったくなったティアラが頬を少し赤らめると、それがリロイにも伝染して2人でもじもじしてしまい、

当の魔王は、ラスが視界に入っていないかのようにして空を見上げているグラースにやきもちを妬きまくって…いらいらしていた。


「グラースの髪、すっごく綺麗。私もウェーブつけてみようかな」


「チビはそのままでいいの!俺はその方が好きなの!」


「コーの好みなんか聞いてないもん。どうしたの?さっきからおかしいよ?」


ようやく気を引くことに成功し、無理矢理マントの中に抱き込みながら木に寄りかかって座ると、ラスの口にビスケットを持っていくと食いついた。


「妖精の森はまだまだ遠いんだぜ。しかも今日も野営だ。どうだ、怖いか?俺が守ってやっからな」


「じゃあ私、グラースの隣がいい。いいでしょ?」


リロイやティアラはグラースを敬遠しているのに、ラス1人がグラースに夢中になって話しかけ続けたせいか、


ようやくグラースがラスを見て、同じグリーンの瞳をほんのわずかに揺らせた。


「私の隣に?それは構わないが…」


「やった!」


「くそっ、遠慮しろよ!」


魔王、やつあたり。
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