魔王と王女の物語
コハクがラスを抱っこして元来た道を戻っていた。


“俺の子供を生んで”と言われたラスは、パニックになっていた。


「コーは私のことが好きなの?赤ちゃん生んでほしいくらい好きなの?」


「もっちろん。だからさあ、これから小僧に気安く触らせるんじゃねえぞ。チビは俺のものなのー」


「ま、まだ返事してないもんっ。コーのこと…好きかもわからないし…」


コハクが立ち止まる。

最後は聴こえない位の小さな声だったが、ラスの鼻を甘噛みすると、断言した。


「いーや、チビは俺のこともう好きになってるはずだぜ。触られるの…恥ずかしいんだろ?」


「はっ、やっぱり恥ずかしくないもん!…コー、下ろして、自分で歩けるから!」


「やだねー。腹痛いんだろ?走ったりしても駄目だし、1週間大人しくしとけって。俺がアレコレ世話してやっからさ。アレコレ…ふふふふ」


また不気味な笑い声を漏らしてラスから“怖い”と言われて、ラスとの関係が1歩前進した手ごたえが確かにあり、

男として意識させることにも成功して、満足しきりだったのだが…


「恥ずかしいからこれからはもうお風呂一緒に入んないから。寝るのもヤだ」


「はあ!?な、なに言ってんだよ、それとこれとは別…」


「恥ずかしいもん!」


「だめー!ぜってぇ風呂も入るし一緒に寝るからな!」


押し問答しながら馬車に戻り、その時にはラスの顔色も良くなっていて、皆がラスに駆け寄った。


「具合はどう?次の町でちょっとゆっくりしよっか」


「1週間の生理休暇希望ー!」


魔王があけすけもなく言ってリロイの顔を真っ赤にさせると、ラスは首を振って馬車に乗り込んだ。


「休暇とか要らないよ。妖精さんに早く会ってみたいし急ごうよ。グラース、またお話しよ」


「ああ」


ラスがまた気さくに話しかけてくれるようになって、実のところグラースもかなりほっとしていたのだが…残念ながらそれは表情には現れない。


またラスもはじめての経験で不安いっぱいになっていたが、気分は晴れていた。


「赤ちゃんって…自分が生むんだね。びっくり」


…その発言に、グラースとティアラがびっくりだった。
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