魔王と王女の物語
ブルーストーン王国の城下町は、理路整然としていた。


長い一本道の先には、外からも見えた縦長の塔があり、ラスは追いかけてきたコハクに手を掴まれて唇を尖らせた。


「だからお前はすぐ迷子になるんだから1人でちょろちょろすんなって。グラース、案内しろよ」


「ああ。…1つ言っておくが、私は父たちに歓迎されてない」


「ひどいこと言われるの?大丈夫だよ、私たち、グラースの味方だからね」


ラスのような純粋で可愛らしい自分を随分前に捨てたグラースはこの王女が愛しく、

ラスが手を繋いでくると魔王からぎろりと睨まれたが、敢えて無視して一本道を歩き出した。

数年前に飛び出して行ったはずのグラースが戻って来たことにすぐ気が付いた街の人々は、軒先に次々と出てきて、帰りを喜んだ。


「グラース様、お帰りなさい!」


そう声をかけられてはにかむとまた拍手や歓声が起こり、空いているラスの左手をしっかり握った魔王は小さなラスの頭上を通り越してグラースに話しかけた。


「歓迎されてるじゃん。何がいけなくて飛び出して行ったんだよ」


「…城に入ればすぐにわかる」


ラスが心配そうな顔をしてグラースを見上げて歩くのが邪魔になるほど強く抱き着くと、案の定魔王が大嫉妬。


「チビ、抱っこさして。もう限界!」


「でもみんな見てるし…」


「見たっていいじゃん。おい小僧、あちこち見回っておけよ」


「…わかってる」


――背後からはティアラを人ごみから守りつつ辺りを警戒しているリロイがそう返した。

やはりこの国でもコハクとリロイの容姿はすこぶるずば抜けていて、若い女たちがうっとりした瞳で見つめていた。


だが魔王もリロイもそれには一切応えない。


応えてほしいのは、1人だけ。


「あ、着いたよ。あれ?誰か居る…」


城の正面の大きな扉の前にはいかにも難しい顔をした王冠を被っている老年の男が立っていて、グラースがため息をついた。


「あれが私の父だ。その横に居るのが…」


背の高い金髪の優しそうな顔をした男――


この男のせいでここを出て行った記憶がよみがえる。

…早くまた出て行かなければ。
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