魔王と王女の物語
リロイがあまり笑わなくなり、グラースとティアラはそれを危惧していた。


…覚悟がちらちらと見える。

その覚悟はティアラとグラースが望んでいない種類のものだ。


「…あなたは一体どうするつもりなのですか?魔王を本当に殺すのですか?」


「…僕は…ラスに恨まれることになっても魔王を倒します。それが世界のためなんです」


「お前のため、だろう?私利私欲のためなら、私がお前を全力で止めてやる」


グラースは完全にラス派で、魔王とラスは共に在るべきだ、と思っていた。

…自分とリロイとの力は互角。

魔王の城に着くまでは、リロイを見張るのが自分の役目。


「グラース王女…」


「私はもう王女じゃない。その呼び方はやめろ」


そしてラスに目を遣ると、コハクが動けるように木陰でチーズを乗せたパンを美味しそうに食べていて、

後ろから抱っこするような形で木の幹に寄りかかっていたコハクとリロイの目が合うと、見せつけるようにして口移しでワインを飲ませていた。


「コー、酔っちゃう」


「酔ってもいいじゃん。ほら、この辺がもっと育つようにこれも食え。あとこれとこれも」


ラスの影から次々と肉や蒸しパンなどを取り出し、ラスの胸を撫でまくっている魔王に殺気づいたリロイが詰め寄ろうとしたの2人が止めた。


「無駄だ、やめておけ」


「ラスが穢される!」


「穢されてなんかない。ラスの顔をよく見てみろ」


――肉の塊をナイフで削ってやり、雛鳥に餌を与えるようにラスが口を開けていて、どこからどう見てもラスとコハクは恋人同士に見えた。


また普段はきつい表情をしているコハクの美貌は柔和で悪意の欠片もなく、

ただこちらと目が合うと、いつものにやにや笑いが復活してキスをするように唇を鳴らしてきた。


「物欲しそうに見たって駄目だぞ、俺はチビのものだもん。あとそこの小僧、俺のチビを見んな。またボインの胸を揉みたいのか?」


「ふざけるな。ラス、もう少ししたら出発するからね」


「うん。あ、リロイも食べる?コー、離して」


「やだね。俺はお前の影だぞ。離れねえし」


べったり。


魔王、相変わらずの独占欲。
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