魔王と王女の物語
意地悪な笑みを消したコハクは凛としていて男らしく、〝本当にこの男が自分を愛しているのか?”

ラスは不安に背中を押されて、コハクの背中に腕を回すといつもされているように頬や瞼や額にキスをした。


最初はくすぐったそうにしていたコハクがマントを落とすと細い均整の取れた身体をさらし、1度指を鳴らして馬乗りになった。


「あのさあ、挑発されると止まんねえんだけど。どうした?」


「愛とかよくわかんないの。でも…コーは他の人とは違うの。ぎゅってしてくれると嬉しいし、コーが笑ってくれると嬉しい。コーのお城で私に何かしてほしいんでしょ?」


――グリーンの瞳はコハクのレッドの瞳を真っ直ぐに見据えた。

冗談ではなく今ここで本気でラスを欲してしまいそうになっていたコハクは、ラスの細い手を取って黒のシャツの中に導くと、心臓の上にあてた。


ラスとひとつになりたくて激しく脈打つ鼓動――


至近距離で見下ろすコハクの長い黒髪がラスの頬をくすぐり、城の棺の中でラスと自分を待っている本体に想いを馳せて、頬を赤くしているラスに笑いかけた。


「してほしいことがあるんだけど、いやならしなくていい。ただし、一生俺がチビの影に居座ることになるけどな」


「…それはそれで私は嬉しいな。コーとずっと一緒なんでしょ?ねえコー…“友情の証”、して…」


ままごとのようなキスをするつもりはもうない。


ラスに愛を伝え、ラスの答えを待つだけになったのだから、もう、抑えない。


「チビ、それはもう無しだ。俺はチビの“勇者様”になりたい。だから…これからは“キス”をする。いやなら俺を拒絶しろ」


「え、き、キス…!?でもそれは王子様や勇者様が………ううん、いいよ。コーは私の王子様だし、勇者様だもん。いつも助けてくれる大切な人だよ」


…赤い瞳が微かに潤んだ。


ラスに認められて受け入れてくれて、もうそれだけで十分だった。


瞳を閉じたラスの頬を両手で包み込み、ゆっくりキスをすると、もう唇を開いていて…


そこからは一気に激しいものへと変わって、ラスの息が上がるまで舌を絡めて離さなかった。


「コー…、好き」


「ん、知ってる」


魂と指を絡め合う。

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