魔王と王女の物語
「お師匠…俺に魔法を教えてくれ」


コハクは家に着くなりはじめて明確に、かつ真面目な顔で訴えた。


大賢者ローズマリー…皆にそう言われる所以は自分が1番よく知っている。

こんなにもやすやすと簡単に魔法を使うことができて、そして尊敬もされて、知識も豊富で…さらに、とても綺麗で…

ローズマリーの前で正座したコハクは真剣に訴えて、笑われた。


「急にどうしたの?村の子供たちと何かあったのね?」


「…魔法を使えば仲間に入れてくれるって言われたんだ。俺…みんなと遊びたいんだ。だから…」


「動機が不純だわ。魔法使いっていうのは人のために魔法を使い、人のために知識を熟成させてゆくの。そんな動機では駄目よ。それにあなたは…」


「…なんだよ」


ローズマリーはコハクの前で同じように正座をして、男らしくなりかけているコハクの肩に触れて、声を潜めた。


「あなたはあの水晶の森に捨てられていて、私が見つけるまでずっと水晶が抽出した液体をミルク代わりに呑んで生きながらえていたの。いわばあなたの身体そのものが、水晶なのよ」


「だったら俺が頑張ればすぐに魔法が使えるのか?お師匠、どうなんだよ」


時々男の顔をして、時々女を見る瞳をするコハク。


昔はローズマリーと一緒に風呂に入っていたが今はそれも禁じられ、寝る時もローズマリーは2階で、コハクは1階。

少しずつ距離を取られていて、コハクはそれがとてもいやだった。


「そうね…でも独学では絶対に危ない目に遭うわよ。……仕方ないわね、私が魔法を教えてあげるわ。あなたの潜在能力は類を見ないほどだもの」


大賢者ローズマリーからの指南…

それを勝ち取ったコハクは、喜びのあまりローズマリーをぎゅっと抱きしめた。


「俺、真面目に勉強すっから!」


「ふふ、頑張ってね。私、意外とスパルタよ?」


ローズマリーは小さい。

10歳のコハクは成長期で、腕の中にすっぽり収まってしまうほどに、小さい。


やわらかな身体の感触がダイレクトに伝わってきて、雄の部分を刺激されたコハクは慌ててローズマリーを離して後ずさった。


「ご、ごめん!」


「ふふっ」


…意識し始めた。
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