魔王と王女の物語
ローズマリーが書いた魔法書が並ぶ本棚の前に立ち、

“『四大元素」の中から好きなものを選べ”と言われてコハクが手にしたのは、火に関連する書物だった。


「あなたの性格からして火が1番相性が良いかもしれないわね。じゃあ見てて」


庭に連れて行かれて、わくわくが止まらないコハクは書物を胸に抱きしめて、何かを唱えて人差し指をすう、と伸ばしたのを固唾を飲んで見つめていた。


「サラマンダー」


『…何用か』


地面に魔法陣が浮かび、そこから浮かび上がってきた炎に包まれた蜥蜴を見たコハクは、

のそのそと近付いて来るサラマンダーからローズマリーを守るように立ちはだかって、鼻で笑われた。


『小僧…我の前に立つと黒焦げになるぞ』


「お、お前がサラマンダーか!お師匠、今のは詠唱破棄だろ?すげえ!」


普通はサラマンダーを見れば身を竦めてしまうのにコハクはさらに近寄ろうとしてローズマリーに止められ、サラマンダーは口を大きく開けて、口の中で揺れる業火を見せつけた。


『小僧、見込みがあるな。もう少し力をつけたら我の試練を受けるがいい。合格すれば力を貸してやってもいい』


「今日は呼んだだけ。また力を借りる時はお願いね」


ローズマリーが笑うと炎をノッキングしながら魔法陣に沈み、いつかあれを呼び出して試練を受けてみようと考えて、2人で花畑の上に座って魔法書を広げた。


「あなたならいつか呼び出せるわ。それよりも最初は小さな炎から。指先に炎を灯すようなイメージを浮かべて。そしてこれを唱えるのよ」


「うん」


記憶力の良いコハクはすぐに呪文を覚えた。

昔から想像力豊かで空想して遊ぶことも多く、人差し指を見つめながら指先に炎が灯るようなイメージを浮かべると…


「できた!お師匠、炎が!」


ぱっと顔を輝かせてローズマリーに指先に燈った炎を見せた。
愛弟子ができたことにローズマリーは純粋に喜び、コハクをやわらかく抱きしめた。


「やっぱりあなたには素質があるわ。今度村へ行く時に見せてあげなさい」


「わかった。…お、お師匠…は、離せよ!」


「いやよ、ふふふ」


思春期まっしぐらのコハクには危険な存在でもあった。
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