魔王と王女の物語
様々な魔法を短期間の間にどんどん覚えていった。

その度にローズマリーが沢山誉めてくれて、自分の周囲に結界を張って1人で水晶の森へ行くこともできるようになって、


コハクは、“はじまりの地”を訪れた。


「水晶の墓場…ここが…俺が捨てられてた場所か」


水晶の森はもともと薄暗く、水晶がほの暗く発光している光だけが頼りで、そんな中でも水晶の墓場は、死んだ水晶が捨てられてゆく場所。

不思議なことに、水晶の森に入ることができずに入り口で捨てられていった水晶たちは、いつの間にかこの墓場まで移動しているという。


今まではローズマリーから禁じられてここへ来ることができなかった。

だが今は自分の力でこの場所に立てっている。

不思議なことにほぼ真っ暗の水晶の墓場は居心地が良く、コハクは腰を下ろして、死んだ水晶たちに話しかけた。


「お前たちが俺を生かしてくれてたんだよな。…これが俺を水晶にしたんだな」


水晶の魔力を吸った大木が、葉を伝わせて水滴を落とし、自分はその魔力を含んだ水滴を飲みながら、数か月間ここに居たという。


この水晶こそが、自分の親なのだ。


ローズマリーは…親ではない。

あの綺麗な女は…


「…ふん、余計なこと考えちまった」


魔法を唱える際の基礎は全て教えてもらった。

最近は1人で覚えた術を練習することも多くなり、水晶の墓場から出ると家へ入り、少し咳き込んでいたローズマリーの背中を擦った。


「お師匠、大丈夫か?また発作が…」


「薬を飲めば大丈夫よ」


ローズマリーが1週間に1包飲んでいる白い粉末状の薬。

彼女の命を繋いでいる生命線の薬を戸棚から出して水を汲んでやり、それを飲み干すのをしっかり見届けてから肩を貸して2階へと運んだ。


「もう大丈夫よ」


「お師匠…あの…その…心配だから俺も今日2階に…」


「ふふふ、子供のくせに私に何をするつもり?」


「な…っ、なんにもしねえよ!」


「冗談よ。明日は村へ行くから準備をしておいてね。少し横になるわ」


下心を見透かされて、髪をがりがりかきながら1階へと降りて、言われた通り明日への準備を整えた。
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