魔王と王女の物語
話がそこまで及んだ時――


コハクの膝から降りたラスが両手で耳を塞いで、背を向けて花畑に寝ころがった。


「チビ…聞いてくれって」


「やだ!コーとお師匠さんがどんな関係だったとか私に関係ないし、やめて!」


「俺がローズマリー…いや、お師匠と特別な関係にあったことは確かなんだ。いつかお前に話そうと思ってた」


自嘲気味に言って、後半は消え入るような声になったコハク――


コハクへの恋心に気付いたばかりなのに、コハクとローズマリーの恋物語を聞かされることのショック…


ラスの胸は悲鳴を上げて、またぎゅっと胸を押さえると身体を丸めて、止めどなく溢れて来る涙を止められないでいた。


――コハクは長い腕を伸ばしてラスの金の長い髪を耳にかけてやった。

世界で1番美しいと思っている緑の瞳から溢れるあたたかい涙を拭って、新たに溢れる涙を唇で吸い取った。


「やだ…お願い、コー、やめて…」


「…ガキだった頃、俺にはお師匠しか居なかったんだ。あれは…愛とか恋とかじゃなかった。…ただの独占欲だ。チビ、お前に抱いてるこの想いとは全然違う。だからチビ、それを踏まえて続きを聞いてくれ。その後…」


言葉を切り、それに不安を覚えたラスが振り返って、上半身を傾けて半ば覆い被さるようにしていたコハクと目が合って、


鋭いナイフで切りつけられたような痛々しい色に赤い瞳を染めて、俯きながら吐き出した。


「その後なら、俺から離れて王国に戻るか、俺の城までついて来てくれるか決めてくれ。前にも言ったろ?俺はチビの気持ちを尊重するからさ」


「コー…、やだ、離れてかないで…っ」


「ん、だから話を聞いてから決めてくれ。だからチビ…」


――ラスは想いを込めてコハクの細い背中に腕を回すと強く抱き着いた。


コハクも想いを込めて、ラスの腰を抱くと強く抱きしめて、胸に顔を押し付けた。



「お前が俺にあたたかいものを全部教えてくれたんだ。お師匠じゃない。お前なんだ」


「コー…っ!…うん、ちゃんと聞く…。泣いちゃうかもしれないけど、ちゃんと聞くから…」


「サンキュ。じゃ…続きな」



――ローズマリーとの出会いから、別れを――
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