魔王と王女の物語
「コハク…私は逃げないから、焦らないで」


風呂も早々に切り上げたコハクはローズマリーを抱き上げて、2階のベッドへと押し倒した。


…もっぱら関心があるのは、魔法とローズマリーのことだけだった。


いつも距離が縮まらないこの女をどうにかしてやりたくて、ねじ伏せたくて、それはやっぱり未だに愛だの恋だのではない気がして…


とにかく支配したくて指を絡めて、この時はじめて、女を抱いた。


「ローズ、マリー…っ」


「これで…、あなたも大人の、仲間入りね…」


――どうして自分を誘惑したのか。

そういう瞳で見ていたことに気付いていたのか。


それとも…ここから追い出したいのか?

もう教えることがなくなったから?


「俺は…どこにも行かない。あんたとずっと、ここに居る」


「…私とずっと居たって面白くないだけよ。それよりもコハク…あなた、あっちの方も将来有望だわ。末恐ろしい子ね」


大人の仲間入り、と言いながらもどこまでも子供扱いはやめず、

身体の力が抜けて覆い被さった自分の頭を撫でて子供をあやすような仕草をした。


女とはこんなにやわらかくていい匂いがして、気持ちいい存在なのか。

…ローズマリー以外の女も?


――暗闇にコハクの赤い瞳は輝き、

師匠と弟子の関係を越えた2人はただ見つめ合って、コハクはローズマリーを抱いたことを、悔いた。


ローズマリーは自分を支配していたが、今は自分がローズマリーを支配している。


…目的を達成して、コハクの心は達成感に溢れた。


ここに居る間は何度も何度もこうしてローズマリーを抱いてしまうだろう、という確信はあった。


「あんたは…俺の世界の中心に居るんだ。だからここにずっと居る。あんたとずっと…」


「あなたの世界は狭すぎるわ。世界が広がれば、私のことなんてどうでもよくなる。きっと飽きるに決まってるわ」


「そんなことない!俺はあんたを…」


「愛してるわけないわよね?愛とか恋とか教えたことはないものね。それは外の世界で学ぶべきよ。ここでは学べないわ」


――痛烈な本音と拒絶。


だからこそコハクは逆に…ローズマリーにのめり込んだ。
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