魔王と王女の物語
ローズマリーを支配したはずなのに、距離はちっとも縮まってはいなかった。


…抱かせてはくれるが、心は許してくれない。

指を絡め合って一緒に寝てはくれるが、“好き”とか“愛してる”とは言ってくれない。


――それはお互い様だ。

自分だって、ローズマリーに“好き”だの“愛してる”だの言ったことがないから、お互い様だ。


「コハク…あなた幾つになった?」


「26だ。この前四精霊と契約も済ませたし、千里眼も手に入れた。なあ…世界って広いんだな」


「…そうね。それともう1つ聞きたいことがあるの」


2階のローズマリーのベッドで指を絡めて、毎夜のように身体を重ねてなんとかローズマリーから“好き”という言葉を引き出したいコハクは、

頬杖をついて隣で少し難しい顔をして掌を見つめているローズマリーの頬を指でくすぐった。


「魔法を使いづらいことはない?」


「え?そんなことねえけど…どうした?難しい魔法でも唱えようとして失敗したんだろ」


「そうかもしれないわね。……ねえコハク…あなたにひとつだけ教えていない魔法があるの。知りたい?」


暗闇の中ローズマリーの鮮やかな青の瞳が輝き、絡めた指先に力をこめてきた。


「マジか。どんな魔法だ?」


「…永遠の命を手に入れる魔法よ」


――それはどういう意味なのか?

自分を不死にして…ずっと一緒に生きてゆこう、という意味なのか?


もしそうなら…それは何のために?

間接的ではあるが、それはもしかして――


「私は私の編み出した魔法をあなたに伝授したいだけ。どうする?知りたい?知りたくない?どっち?」


…また否定されて、コハクは唇を噛み締めながらローズマリーの顎をやや乱暴に掴んだ。


「知りてえよ。不死になったらやりたいことが沢山ある。…良いことも悪いこともな。それでも俺に教えてくれるか?」


「あなたの好きなように。きっとこれが私の…………になるわ」


最後はよく聞き取れなくて聞き返したが、ローズマリーが馬乗りになってきて圧し掛かってくると、笑った。


「もう疲れたの?」


はぐらかされたのはわかっていた。

わかっていたが…
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