魔王と王女の物語
翌朝ローズマリーは昼を過ぎても2階から降りてこなかった。


“精神を集中するから”と言っていたが…


「そんなの一瞬でできるだろ?」


――最近のローズマリーは自分が魔法を使うと時々痛そうな顔をする。

その意味も全然わからなくて、最近は彼女の前で魔法を使うことは少なくなっていた。


そんな顔をされたくないから。


「お待たせ。じゃあはじめましょうか」


明らかに集中した顔をしていた。

瞳は魔力に溢れて光輝き、表情はとろんとしていて、

床に特別な白いチョークで複雑な魔法陣を描くとその中心にコハクを立たせて、念押しをしてきた。


「死にたくても死ねなくなるのよ。ばらばらにされてもいつか元通りになるわ。その間苦痛はずっと続くの。それでも知りたい?」


「知りてえ。存在する全ての魔法を知りてえ!」


「…伝授した後それを誰かに使ったり伝授したりはあなたに任せる。永遠を生きる者よ、ここに生あれ」


――ボールを持つような仕草をして、呪文を唱え始めた。

みるみる強大な魔力がその手に集まり、さすがのコハクも喉を鳴らして見守った。


「生あれ」


光が…

ローズマリーの掌から生まれた光が胸を打ち、みるみる全身に広がった。

痛くもなく、熱くも寒くもなく、この時は本当に不死の魔法が成功したのか、コハクにはわからなかったが――


「!ローズマリー!」


「う…っ」


魔力を使い果たしたのか、倒れ込んだローズマリーを抱き起してソファに座らせると、儚く微笑んで、頬に触れてきた。


「成功したわ…。あなたも…知識を追求して、探究して、魔法使いではなくて立派な賢者になって。私の、ように…」


「おい、大丈夫か?ちょっと横になっとけよ」


意識を手放したローズマリーをベッドに運んで一息ついて、本当に自分が不死になったのかを確かめるために外へと出て…


業火を右手に生むと、自身の身体に向けて放った。


「ぐ、ぅ…っ!」


…血は大量に溢れ、即死のはずなのに、傷はみるみる塞がってゆく。

火傷もみるみる治癒してゆく。


――そしてローズマリーは魔法を使えなくなった。
< 285 / 392 >

この作品をシェア

pagetop