魔王と王女の物語
「チビ…これが、俺がお前に話してなかったことだ。納得したか?」


――コハクの過去の告白は、ラスをひどく痛めつけていた。


ひとつひとつの言葉に重みがあり、2人の過去が詰まっていた。

コハクがローズマリーから追い出された後も、ローズマリーを支えていたと知って、激しく嫉妬を覚えた。


「…わかった」


「その返事はわかってねえだろ。他に聴きたいことはあるか?」


「わかったって言ってるでしょ?もう…終わったんでしょ?だったらもういいの」


コハクが肩を揺さぶってきて仕方なく寝転がったまま肩越しに振り返ると、

ガーネットのように綺麗な赤い瞳は、理解してもらえない苦しみに光っていた。


「…コー…」


「お師匠との話はこれで終わりだ。その後、俺は研究に没頭して、城を建てて、生きることに飽きて…世界を征服しようとした。そんでチビの父ちゃんにとっちめられてチビの影になったってわけ」


ようやく砕けた喋り方になったコハクにほっとして小さく笑うと、

コハクの告白が始まってから、薬指に嵌められているリングを外そうか外すまいかでずっと悩んでいたラスは、

コハクがリングにちゅっとキスするのをじっと見つめて、精一杯笑いかけた。


「これ…つけてていいの?コーはもうお師匠様のこと…なんとも思ってないの?」


「何百年経ったと思ってんだよ。それにさ…お師匠のことはチビに抱いてる感情とは全然違う。あの頃の俺は全てを征服したくて粋がってたガキさ。俺の気持ちは精霊の森でチビに伝えたはずだぜ」


「でも…」


「それに俺は沢山の命を奪った。ホワイトストーン王国を全滅させたし…歯向かってきた奴らは全員殺したんだ。…チビには隠しておきたかった。でも無理だよな、事実だし、俺は真っ黒だ」


「コー…そんなことないよ。ねえ聞いて。私ね…」


そこで言葉を切ったラスはむくりと起き上がり、コハクの左手薬指に嵌まる大きめのガーネットのリングに触れて、ぎゅっと目を閉じながら声を振り絞った。



「私…コーのことが好きなの。大好きなの」


「知ってるけど…」


「…あ、あ、愛、してるの…」


「…チビ…………」



ようやく――
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