魔王と王女の物語
“愛してるの”


――はじめて使ったことのない言葉を口にした。


コハクはずっとその言葉を待ち続けて…恐る恐るという態で抱き起されると、コハクの赤い瞳はまん丸になっていた。


「ち、チビ?俺の話ちゃんと聞いてたか?俺は悪い奴で…お師匠とは身体の関係もあって…」


「ちゃんとわかってるもん。…だけど…コーのこと嫌いになれないんだもん!コーは…コーは今は私のこと…好き…なんでしょ?だったら…」


「あ、あのな、“愛してる”っていうのはお前…ちょっとタイムタイム、落ち着け俺!」


くるりと背を向けてがりがりと髪をかき上げているコハクの背中に、ぴっとりと身体を寄せて頬ずりをしてみた。


びくっと身体が揺らいで動揺を隠しきれないコハクはとても新鮮で、その時直感的に浮かんだ言葉を、ラスはそのまま口にした。


「コーは私になんでもしていいんだよ。コーのものになりたいの。私のこと…独占したくない?」


「な、なんでもっ!?あ、あのさあ…俺のこと…怒ってないのか?」


何故かマイナスなことばかりを口にするコハクは、前に回り込んできて膝に上り込んできたラスの真っ赤な顔以上に…


顔が赤かった。


「怒ったけど…もう怒ってないよ。コー…コーのお城に着いたら…」


今度はラスが恐る恐る唇を寄せて、コハクの耳元で囁いた。



「コーのお嫁さんにしてね」


「…チビ…」



――コハクが子供のような笑顔でくしゃっと笑った。

ものすごくほっとした表情をしていて、急に恥ずかしくなって俯いたラスの瞼にキスをして、細すぎる背中に腕を回して抱きしめると、

そのまま倒れ込みながら、陽が暮れてしまった夜空を見上げた。


「絶対幸せにしてやるよ。俺の過去…やってきた悪事…受け入れてくれてありがとう。さすがは俺が選んだ女だ」


「コー、疑ってごめんね。私…料理も覚えてお掃除も頑張るから」


「チビはなんにもしなくっていいの。あ、料理はマジ食いたいんだけど!チビ…」


言葉を切るとラスが首を傾げて、そんな仕草にもきゅんとしながら激しく唇を奪った。


「ガキを沢山作ろうぜ。チビに似た可愛いガキをさ」


魔王、最高潮。
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