魔王と王女の物語
バスルームから出て来たラスからは薔薇の香りがして、なおかつほかほかで…


ごくっと生唾を飲み込むと、目ざといローズマリーがラスの肩を抱いてこっちに駆け寄ろうとしていたラスを引き留めた。


「今コハクの近くに行くと何されるかわからないわよ」


「な…っ、ふざけんなよチビは俺のもんなの!なんでもしていいの!チビ、そうだよな?!」


「えーと…うん!」


「必死さが伝わってくるわねえ」


手招きをするとようやく両想いになれた小さなお姫様がソファに座っていた自分の隣にちょこんと座ってきて、

タオルで濡れた金の髪が傷まないようにぽんぽんと叩いて水分を飛ばしていると、また笑われた。


「そんなに甲斐甲斐しかったかしら?」


「チビは特別なの。お前さっき風呂に入ってる時むっちゃテンション高かったけどどうしたんだ?」


問うと、ラスはいきなり…自身の成長過程な両胸をわし掴みにすると、もみもみと動かしてみせた。


「お師匠様にこうされたの」


「ぶはっ!こ、こら俺の天使ちゃんに何してんだよ!」


「順序間違えてるんじゃない?“魔王様”は頑張って耐えてるのねえ、お労しいわ」


馬鹿にした口調でミルクを口にして、ラスの分を手渡すとにこっと笑いかけた。


「毎日ミルクを飲みなさい。そうすれば私くらいにはなるかも」


「えっ、ほんと?でもコーは小さくてもいいんだよね?」


「小さくても大きくてもチビならどっちでもいいや」


――デレデレ。

かつて“魔王”と呼ばれて世界を暗黒に貶めようとした男は…

デレすぎて、ローズマリーは密かに腹筋崩壊に陥りそうになっていた。


「今日は泊まっていくでしょ?ラス、私と一緒に寝る?」


「はいっ」


「ちょ…、チビ!?寝るのは俺と一緒!お師匠邪魔すんなよ!」


「はいはい冗談よ。じゃあソファを使ってね。あなたたちの連れは…朝まで戻って来ないかもしれないわね」


…ローズマリーのその言葉には多分な意味が込められていた。


リロイたちが水晶の森でよからぬことをしようとしている。


その意味をくみ取ったコハクが赤い瞳を細めた。

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