魔王と王女の物語
――リロイが立ち止まって、それを見上げた。


…水晶の柱が大木のようにそそり立ち、明らかに他の水晶とは違う佇まいで、ティアラが息を呑みながら、最後にもう1度だけ、説得を試みた。


「まだグリーンストーン王国が残っています。そこで聖石の加護を…」


「ティアラ王女…グリーンストーン王国はもう存在しません」


「え…?」


「かの国は“聖石を紛失した”と報告をした後王国の加盟から籍を削除され、“王国”としては存在していません。それ以降交流がなく、誰が治めているのか、どんな国なのか誰も知らないのです」


「そんな…」


希望は絶たれた。

…今ここでリロイの願いを叶えなければ、この真っ直ぐすぎる男はどんな手段を使ってでも魔王を手にかけるだろう。


ティアラの心はすでにラス寄りになっていたが、水晶の大木の前で手を広げると、息を吸い込んだ。


「…成功を祈っていて下さい」


「大丈夫です。きっと水晶は力を貸してくれます」


…根拠のない自信。

グラースは剣の柄に手をかけたまま、リロイとティアラの背中を見つめていた。


――ラスは長い間リロイたちの帰りを待っていたのだが、元々いつも早寝なため、ベッドタイプになるソファでうとうとしていた。


「眠たいんだろ?そ、そろそろさ、一緒に寝ようぜ」


「うん…も、眠たい…。コーはいつもこのソファベッドで寝てたの?」


「まあな。ほらこれ着て」


ラスの影から取り出したのは…もう服とは言えないほど透け透けなシルクのネグリジェ。


「あっ、間違えた!これは初夜に…」


「初夜?どういう意味?」


もう起きていられずにころんと横になったラスに覆い被さるようにして顔を近付けて鼻を噛んだ。


「俺とお前がひとつになる日のこと」


「ひとつって…赤ちゃんができるようなこと?」


「そう。絶対優しくするから泣いたりするなよ。や、泣いてもいいんだけど。いやいやいや、むしろ鳴かせたいんだけど!」


やっぱりいまいち意味はわからなかったが、コハクは自分にひどいことをするわけがない。

だからラスは、コハクの背中に腕を回して、耳元で囁いた。


「うん」
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