魔王と王女の物語
今コハクが自分に求めているのは愛…

そして、それ以上の行為。


――ラスはそれを知らない。城お抱えの教師は一切そういうことを教えてはくれなかった。


それがカイの意向であることを知らないラスはコハクに熱烈に求められて、眩暈を覚えていた。


「コー、やだ、怖いよコー…っ」


「何が怖いんだよ。俺か?それともこういうことされるのが怖いのか?」


「私…何も知らないんだもん。もっと色々、お城で教わっておくんだった…」


顔を真っ赤にさせて身を捩るラスとコハクに降り注ぐシャワー――


あともう少しの我慢ができなくてラスを悩ませるようなことをしてしまい、

己の行動を後悔したコハクは腕を伸ばしてラックからバスタオルを取るとラスの身体に巻き付けた。


「ごめん、まだ早かったな。チビが何も知らねえのは仕方ねえよ。カイがお前を俺の花嫁にさせまいと四苦八苦して選んだ決断なんだ」


コハクに対して決して恋心を抱かないように――


ただそれだけを願って、城に閉じこめられて育ったラス――


「でも…私はコーのお嫁さんになれるんだよね?コーは今私に何かしたかったんでしょ?続き…してもいいよ?」


上目遣いで見つめられてまた爆発しそうになったコハクは、自分の腰にもさっとバスタオルを巻くと後ずさりしながらラスから離れた。


「や、我慢我慢。俺先に上がってるし、チビはしっかり身体あっためてから出て来いよ」


「…うん、わかった」


脱衣所に移動したコハクは、へなへなとその場に座り込んだ。


「あーマジ超やべ…。おい俺、ゴールはすぐそこなんだ。踏ん張れ俺!俺自身に負けるな俺!」


――魔王が魔王と呼ばれる所以…

ただ単に生きるのに退屈になって世界に対して征服宣言をしてから今までの間…


あの時は面白いアイディアだと思ったが、今それをラスに雄弁に語れるかと言われたら、難しい。


“魔王”と呼ばれるまでには、それなりの悪事を重ねてきたのだ。


だがラスは、きっとそれを受け入れてくれるだろう。

無知だから、ではなく…純粋にわかろうとしてくれるだろう。


「…へへ」


嬉しさで笑いが込み上げた。
< 298 / 392 >

この作品をシェア

pagetop